翌日、部屋でくつろいでいると、ヒロ先輩からLINEが入った。
「あ、ヒロ先輩からだ」「俺にも来てる」
ヒロ:音楽室、2曲目と3曲目、原曲はこれだから、聞いてね
「曲、決めたんだ」
「うん。昨日、ヒロ先輩と学校で雨宿りしている時に、話し合った」
「ふーん。夏の夕暮れっぽくて、良い感じじゃん」
ヒロ:で、2曲目のハモリパート、作ったから、聞いてね
ゼン:はい、ありがとうございます
ツー:ありがとうございます
ヒロ:AとBあるけど、どっちをゼンにするかとか
ヒロ:一番だけで終わらせるかとか、迷ってるから
ヒロ:悪いけど、両方のパート覚えて
ゼン:はい、わかりました
「流石は、ヒロ先輩だね。仕事が速い」
「速いっていうか、何が起きているのか、判らないよ」
「まぁ、ああいう人だからしょうがないでしょ」
「なんか、ゼンって、ヒロ先輩のことすごく好きだよね」
「そんなことないよ。僕がヒロ先輩担当だからだよ。
ツーも、そうでしょう?」
「確かに、ヨリ先輩の方が話しやすいけど、、、」
ヒロ:2番目の曲は、明後日の放課後に聞くから
ヒロ:悪いけど30分早くツーも第二に来てね
ツー:はい、わかりました
ヒロ:あと、3番目の曲は、オケはブラバンで作るから
ヒロ:フリはゼンとツーで考えて
「ヒロ先輩って、丁寧なんだか、雑なんだか判らない人だよね」
「僕も、ああいうタイプの人に会ったのは初めて」
ツーと久しぶりに、ちゃんと話したかも。
これでツーの機嫌が直ってくれたら嬉しいな。
ヒロ:あ、あと、2番目の曲の歌詞
ヒロ:google先生の繁体字ってやつで翻訳してもらったけど
ヒロ:日本語より、意味判るかな?
ヒロ:翻訳の精度がどれだけ高いのか、全然わかんないんだけど
ピコンという音と共に、日本語、台湾華語併記のテキストが送られてくる。
テキストが送られてきて数秒、歌詞を読んでいる。
こういう意味なの?すごく恥ずかしい。
目線を上げると、同じタイミングでツーも顔を上げた。
僕はなんだか恥ずかしくて、思わず目線を反らした。
きっとツーもそうだっただろう。
「俺、曲覚えるから、(ベッドの)上にいく」
「うん」
ヒロ:ねー、これ、中国語で歌ったらどうかなー
ヒロ:せっかく台湾の子2人なんだから
ゼン:いえ、日本語の方がいいと思います
ツー:日本語の方が良いです
翌日朝
「おい、ゼン。LINEグループに、こんな写真が流れてるんだけど」
ツーが見せてきたのは、一昨日の渡り廊下の写真。
雨で霞んでて、後ろ姿だけど、僕とヒロ先輩が写っている。
よせばいいのに、LOVE♡の文字が踊っている。
「これはー、一昨日、ヒロ先輩と居た時の写真だね」
「だから、これどういう事って聞いてるんだけど?」
あー、また怒らせちゃったなー。。。。
「だから、一昨日、帰りにすごい雨が降ってきたから、
渡り廊下で雨宿りしてて」
「雨宿りで、こんなにくっつく必要ある?」
「これはヒロ先輩が寒いって言うから」
「なんでヒロ先輩が、君の膝で寝ているの?」
「これは、ヒロ先輩が急に眠いって言い出して、本当に寝ちゃったんだよ」
「そんなことある?」
「あるって!全然起きないから、宮城先生に助けてもらったんだよ。
先生に起こしてもらったんだから」
「ふーん」
「だいたい、ヒロ先輩はヨリ先輩と付き合っているでしょ?」
「でも、ゼンもヒロ先輩のこと大好きだよね?」
「その好きと、この好きは違うでしょ。
それに、ウワキとかしてるんだったら、もっと隠れてするもんじゃない?」
「もういい。学校に行く時間」
「僕の言ってる事、信じてくれた?」
「半分信じた。半分信じていない」
あーー、この感じ。8割9割は信じてくれてないなー。
朝起きると、シノからメッセージが入っていた。
昼休みになったら第一に来いとのこと。
めんどくせー奴。
視聴覚室に入ると、ヨリくんとシノが待っていた。
「おい!筒井!やってくれたな!
お前が、ここまでバカだとは思わなかったぞ」
「はぁ?何のことだよ?」
「筒井、この写真は何だ?」
「あー、これ?先週、ゼンと一緒に居た時の写真じゃないの?」
「あーじゃ無い!ぼやけているし、後ろ姿だからまだしも、
こんな茶髪でチビな男子生徒はお前しか居ない」
「雨に濡れて寒かったから、くっついたんだよ」
「だいたいだなー。お前のやたらくっつく癖はどうにかならないのか?」
「別にいいじゃん。女の子じゃないんだしさ、2人で仲良く話してただけなんだし」
「バカか。こうして、LOVEとか文字を書き足されたら、
付き合っているのかと勘繰るやつも出てくるだろうが」
「松尾はどう思ってるんだ?」
「ヒロとゼンくんが仲良いのは、チームとしても喜ばしいことだけど、
2枚目の写真は、ちょっとっていうか、かなり嫌」
「だいたいだな、男同士で肩を組んで歩いている姿は時々見かけるが、
膝で寝ているのは、やりすぎだぞ」
「だって、眠くなっちゃったんだもん」
「もん、じゃ無い!確かに、松尾との接触は避けるようにとは言っていたが、
他の交際だって似たようなものだ。お前には、見られているという意識が無さすぎる」
「そんなん知らねーよ。
だから、最初から隠さずに、全部オープンにしとけば良かっただけの話だろ?」
「お前なぁ。何度も言うが、お前のために何人が動いているか、考えろ」
「そんなん、お前らの都合だろ。
言っちゃ悪いけど、俺がお前に指図される理由なんて、何一つないんだからな」
「あーーー、お前って奴は、、、本当気に入らない奴だな」
「そんなん、知らねーよ。本番は100%ちゃんとやる。あと、もう俺に指図するな。
ちょっとがんばったけど、やっぱお前のこと、好きになんの無理だったわ」
「ヒロ!泣いてるの?」
「泣いてない。帰る」
「おい!話はまだ終わってないぞ」
結局、話は平行線のままで、視聴覚室を出た。
しばらくしてヨリくんは、「帰りモスの辺りで待ってるね」ってLINEしてきた。