君が微笑んでくれるから Ep01祭日-3

君が微笑んでくれるから

川の向こうからポンポンと打ち上げ花火の音が。
「あ、今日、甲斐田市の花火大会の日だったんだ」
「そぉ」
ウチの学校のコースは川が近くて、夜になると虫や蛙の声がしてくる。
部活が終わった後、時々何周か走っていた。

松尾くんと並んで歩いていると、頭1つ以上大きい。
「松尾くん、ホント背高いよね。何センチくらいあるの?」
「こないだ測った時は、189だったかな」
でかっ。

「こっちこっち」
松尾くんは、ルートを外れて住宅地の方に俺を引っ張って行った。
「ねぇ、筒井くんはさ、彼女とか、居ないの?」
「えっ、俺??居ない、居ない。」

「またまたー。筒井くん、いつも女子に囲まれてんじゃん」
「ウチは女子多いから、そう見えるだけだって」
「だって筒井くんと三木くんはさ、よく一緒に居るけど、
パッと見た感じでも、筒井くん、モテてるなーって、思うけどなー」

「ミッキーはさ、あぁ見えてちゃんとした奴だから、付き合ってる子、居るよ?」
「え、マジで?誰ー?」
「教えなーい」
「えー、良いじゃん教えてよ」

松尾くんは肩を組んで、俺の体を揺さぶった。
こんな感じで男子と肩組んで爆笑している所は、何度も見たことあるけど、
松尾くんとの距離感が、正直良くわかんない。

「こっちこっち」
「えっ、ここ入れるんだ???」
住宅地を進むと、いつもは閉まっている金網が開いていた。
先を進むとススキが生い茂った川っぺり。

ちょっと開けた場所で川の音を聞いていると、向こう岸からボン!と大きな花火が上がった。
「すげぇ」
「そ、ここは特等席」
松尾くんと手を繋いだまま、しばらく対岸の花火を眺めていた。

「松尾くんこそさ、彼女、居ないの?」
「居ない居ない。俺みたいのはモテないよ。
俺、筒井くんとか、内田くんみたいな陽キャじゃないし」
「えー、絶対嘘だよー。
松尾くん背高いし、足長いし、カッコいいし、絶対モテると思うけどなー」

「背低くても、シノ君なんかカリスマ性あるでしょ。俺、そーいうのもないし」
「あんなん、チビのくせにイキがってるだけ」
「でも、筒井君より、ちょっとだけ背、高いよね」
「あいつはスプレーで盛ってるだけ」

「俺ね、芸能人とか見たことないけどさー、
初めて筒井くんを見た時にね、キラキラ輝いてて、
こういう人がJ事務所とかに入るんだろうなーって、思ったんだよね」
「ないない、ないない。俺、チビだし、生意気だし、運動神経ないし」

ホントのこと言うと、多いのか少ないのか、わかんないけど、
全然知らない子から告られたことは何回かあった。
部活の子だったら平気だけど、女の子と何話していいのか判んないし、
それに、俺、多分ゲイだから、適当な理由を付けて全部断っていた。

また何発か、花火が弾けた。
「ねぇ、変なこと言って良い?」
「うん??」
「俺、初めて見た時から、筒井くんのこと、好きだった、、、
って言ったら気持ち悪い?」

時折花火に照らされる松尾くんの顔は、いつものニコニコ顔じゃ無かった、ように思う。
謎のイケメンが、ずっと俺の事、好きだったの?
だから、ずっと彼女作んなかったの???

「、、気持ち悪くないよ、、」
なんて言ったら良いか判かんないから、本当のこと言った。
「じゃあ、俺と付き合ってくれますか?」
「、、、はい、、、」
松尾くんは俺の頭をポンポンと軽く叩いて、額にキスした。

「じゃ、俺たち、付き合おっか?」
「付き合うって、どうすればいいの?」
「こお」
松尾くんはギュッと俺を抱きしめてくれた。俺も松尾くんを抱きしめた。
松尾くんのドキドキの音がリアルに伝わってくる。

しばらくすると花火の音を聞きつけた文化委員会の声が近づいてくる。
「合宿所、戻ろ?」
「最後まで見ないの?」
「花火終わるまで、待てますか?」
松尾くんは、半ば強引に俺の手を引っ張って、合宿所へ戻っていった。

俺、告られたってことになってる??よね?
OKしたってことになってる??よね?
お互い緊張していて、帰り道は無言だったと思う。

合宿所に戻ると、何となく隣り合って座っていた。
気まずい空気を壊してくれたのは松尾くんだった。
「、、筒井くん、顔赤くなってる。かわいい」
「付き合ってるんだから、名前で呼んでよ」

「ヒロ、ずっと好きだった」
「ヨリくん、、、」
ヨリくんが、俺の手をぎゅっと握った。
「奇跡って、本当にあるんだね」
「、、奇跡なんて、大袈裟だよ」

「大袈裟じゃないよ。
三年間、誰の手も届かなかった一等星が、今、俺の腕の中に居る、、
その確率は何%?未来の学者先生」
「そんなの不確定要素が多すぎるよ。まずは学園生が1500人居るとして、、、」
言葉を続ける前に、ファーストキスを奪われた。

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