君が微笑んでくれるから Ep01祭日-1

君が微笑んでくれるから

目覚ましのベルが鳴る。
「あー、もうこんな時間かー。
ハルキー、しばらく会えないからチューして」
ハルキを呼ぶと、俺の胸に飛び乗って、顔を舐めてくれた。

しばらく、モフモフしていると、
玄関が開く音が聞こえたのか、ハルキは一階に行ってしまう。
「あー、めんどくさー。せっかくの夏休みなのに、なんで2回も合宿しなくちゃいけないんだよ」

俺の名前は、筒井ヒロキ。
とある地方都市、豊宮校の吹奏楽部の元部長。
理数系が全国上位レベルで、特待生としてこの学園に入っている。
大学までのルートはほぼほぼ決まっているので、割とのんびりとした学園生活。

ヨソの学校はどうなのか知らないけど、
宮校では文化委員会が9月後半の学園祭に向けて、夏休みの間に合宿をする。
そして運動部と文化部の代表が参加するというよく分かんないシキタリ。
そんなんLINEでいいじゃん。めんどくさー。

合宿入る前日に文化委員会の野郎とすれ違った。
「あ、チャパ。明日からこっちの合宿に参加するんだって?」
「やめろ、その呼び方」
生まれつき髪が茶色なんで、そんなあだ名で呼ばれてる。
今時の小学校だったら大問題だぞ。

「やる事ないから、宿題とか持ってきた方が良いみたいよー」
と言われた通り、委員会が決めたことを、各部に伝えるのが主な仕事。
合宿の時は、制服でなくていいので、部屋着のようなラフな格好で、
色々と用意するのも面倒だから、そのまま自主練したりしてた。

食堂で昼飯食ってても、文化委員会連中は楽しそうだけど、俺は一人蚊帳の外。
隣の子が時々話しかけてくれるけど、気を使われている感、半端ない。
宮田、さっさと来てーー。

宮田ハルマは野球部の元主将。
運動部にしちゃー、そんなに大きくない坊主の黒縁メガネ野郎。
合宿には当然、宮田が来ると勝手に思っていたし、
喋りやすいから、早くこいよ、あのバカって思ってた。

「悪い悪い、遅くなった、、、」
やって来たのは松尾タダヨリくんだった。
どうやら、宮田がコロナをもらって、軟禁状態になったらしい。

文系クラスの松尾くんは、バレー部の元主将。
凄い背高いし、TVドラマに出てくるようなかっこいい人、
と思うんだけど、浮いた話を聞いたことがない。
男連中とは楽しそうにじゃれあっているけど、俺からしたら謎のキャラだ。

実際、喋ったことないから、なんかいきなり緊張してしまった。
部屋着の松尾くんはちょっと迂闊なタンクトップに七部丈のハーフパンツ。
ゴツゴツとした二の腕とか、スラリと伸びた足とか、
ちょっと目のやり場に困っちゃう感じ。

文化委員会は空いている教室に戻って会議してるっぽい。
俺たちは学食の2階の合宿場。
2段ベットが2つ並んだ寮のような部屋で待機。
松尾くんとは必要な事を少し話しただけで、あとはなんか気まずい感じ。

「この部屋、大部屋と違ってクーラーあるんだね。少し寒いね」
半袖のシャツを羽織ってくれて、少しドキドキが収まった。
「筒井くん、いきなり部屋散らかしちゃってるね。
ノート、片付けてもいい?」
「だめ、俺のベッドに置いておいて。開いたままで」

待機中は、居場所だけわかれば良いとのこと。
音楽室の方からチューバの音が聞こえてきた。
文化委員会連中のLINEグループに、
「筒井、音楽室に居まーす」と送って、合宿所を出た。

音楽室へ行くと、チューバの三木が自主練していた。
「よう、お疲れさん。宮田とはうまくやってんのか?」
「それがさー、宮田が来れなくなって、松尾くんが来てるんだよ。
松尾くん、ミッキーと同じクラスだろ?どんな感じの人なの?」

「うーん。ヨリくんとはずっと同じクラスだけど、あんまよく分かんないなぁ」
情報、ほぼゼロじゃん。使えない野郎だな。
「マンガとか、ゲームの話はしたことあるけどさ、
あ、そうか、だからさっきLINEでツッチーってどんな人なの?って聞いてきたのか」

「で、なんて答えたん?」
「生意気だけど、なんか憎めない、子猫ちゃん」
「生意気で悪かったな。ニャー!」
「ま、お前、運動部には嫌われているから、いつもみたいに毒舌かますなよ」
「知らねーよ。嫌われてるって何だよ」

「そうそう、松尾くん、スポーツ観戦とか好きみたいよ?」
「野球もサッカーも見ない。興味無い」
「ゲームは?パズルゲームとか、好きそうじゃん」
「時々やるけど、ソシャゲは数字の動きが気になっちゃって、あんまり集中できない」

「マンガは?cry baby、すごい良いって言ってたじゃん」
「あれは曲が良くて、読んだことないけど後であらすじを聞いて、
今時、原作の内容を歌詞にスゲー入れてくる曲があるんだなと思ったから」

「じゃ、お前と何話せば良いんだよ?」
「ミッキー、今、俺と話してんじゃん」
「話してるね」
「東リべの話してみれば?」

「東リべ読んだことないけど、cry baby好きです、なんて言ったら、
それこそ変じゃん」
「松尾くん、優しいから、(歌詞引用)腫れ上がった顔を見合って笑いあう〜、
ってとこ好きなんだよねとか言ったら、ストーリー教えてくれるかもよ」
「話のとっかかりがムズすぎるわ」

「あー、だからさ、もう、何つったら良いんだろう、察して?察して?
松尾くんって、凄いカッコ良いけど、彼女作ってないじゃん」
「何だよ、その小さい寿司ざんまいみたいなポーズ。
確かに、かっこいいけどね。性格に問題があるんじゃないの?」

「でね、わざわざ文化委員会の合宿に参加してきたわけ、判る?」
「それは宮田がコロナになって、代わりに松尾くんが来たんでしょ?」
「お前なぁ。少しは空気読んでくれよ」
「はぁ?空気って何だよ?空気のことだったら、ミッキーより100倍知ってるわ」

「あー、イッちゃんと、ライも来てるみたいだから、一回合わせとこ」
「お前なー、、、」
ブラバンでは学祭中、なんかやろうと言う事で、少人数で1時間おきに、
短いステージをすることになっていた。

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